40代で生涯の職へ
荒川 照恵さん(44歳)
(株式会社中国バス・2017年入社)
約9年勤めた百貨店を、出産を機に退職しました。子育てがひと段落して、パートでさまざまな業種を経験し、気が付けば40代。転職のチャンスが少なくなってきていると感じていました。それでも、生涯働き続けられる仕事を探し、その中で自分を見つめ直したときに、大型車両を操る女性ドライバーに憧れていたことを思い出し、元バス運転者だった父親の勧めもあってこの道に進むことを決めました。
バス運転者に必要な大型二種免許は自ら取得したものの、大型車両の運転経験は全くありません。不安に思っていたところ、経験はなくても研修で運転技術を身に付けることができると聞き、安心して入社しました。入社後の研修では、ブレーキやアクセルのタイミングを何度も練習し、滑らかな減速、発進をするコツを体に染み込ませていきました。
研修で先輩から教えてもらったのが、アナウンスで車内事故を防止できるということ。「バス停前の信号でいったん止まります」「もう少しで動きます」など、バスの動きを小まめにお知らせすることで転倒を防ぐことができます。これは、お客様を守るだけでなく、バス運転者のキャリアを守ることにもつながります。「アナウンスをマスターしたい!」という目標ができました。
今は路線バスを担当しています。アナウンスでは“笑顔で、元気よく、はきはきと”を強く意識しています。ある時、お客様から「運転も声も優しいね」と言われました。思わず心の中でガッツポーズです。考えてみれば、笑顔も声もこれまでのパート経験で磨いてきたもの。バス運転者でこれまでのキャリアを生かすことができ、毎日、うれしく思っています。1日でも長くバス運転者でいたい、1日でも長く勤めていたい、そう思える仕事に出会うことができました。
ふるさとで地域の
役に立ちたい
矢野 雄太さん(30歳)
(広島電鉄株式会社・2016年入社)
学生のころから、仕事をするなら「地域の役に立ちたい」と考えていました。関西の大学を卒業後は、地元の広島に戻り、共同組合の保険渉外担当を経て、2016年に現職に就きました。地域の人たちの生活を支える路線バスの運転者という仕事に、誇りを持って働いています。
私が大型二種免許を取得したのは採用内定後です。自動車学校に入校する費用は全て会社に支援してもらえたのでありがたかったです。免許取得後に社内で運転者としての心得や接客の基礎訓練を受け、実際に運行する路線ごとの特性を踏まえた訓練を受けました。安全運転できるのか、定時で運行できるのかと心配していましたが、しっかりとしたマニュアルがありとても安心しました。それに沿って行動することで今も無事故で運行できています。
普段は積極的に人に話しかける方ではなく口下手な私ですが、バス運転者はお客様と心を通わせることができます。例えば、目が不自由な方が乗ろうとされていたら、バスを降りて手をとって誘導します。降りるお客様が杖を使っていらっしゃれば、バスを降りる一歩目が安定した場所になるように停車位置を調整しています。仕事を通して地域の方々のお役に立つことができ、感謝の言葉もいただけるうれしい仕事です。
路線バスでの経験を積んで、お客様ともっと身近に接することができる貸し切りバスを運転することが次の目標です。
安定した仕事を求めて
堤 史永さん(44歳)
(広島バス株式会社・2015年入社)
家族を支えるために、安定して働き続けられる仕事を求めて何度か転職をしました。バス運転者への転職は以前から考えていましたが、不安や心配が先に立ち、なかなか行動に移せませんでした。バス運転者の労働時間や給与などの労働条件が家族も安心して生活できる内容と知り、当時の生活よりも安定すると感じたので思い切って転職しました。
大型二種免許は入社前に取得していましたが、大型車両の運転経験は全くありませんでした。路線バスの担当になり、しばらくは運転に自信が持てず、「私には無理かもしれない」と落ち込む日も多くありました。心の支えとなったのは、上司が言ってくれた「誰でも新人のときはある。慣れていけばできるようになる」という言葉です。私が苦手だったのはバス停に寄せて停まることです。先輩たちと毎日、その日の運行を終えた後にバスがたくさん止まった車庫で運転の練習をしました。車体感覚をつかめるようになったことで運転にも次第に自信が持てるようになり、運行に落ち着いて臨めるようになりました。
勤務は週休2日で、子どもの学校行事のための有給休暇も気兼ねなく取ることができます。時間外や休日など所定労働時間以上の勤務は、働きたい人が手を挙げる希望制です。家族の予定や状況に合わせて働き方を自分で決められ、長く働き続けることができる仕事だと感じています。
子どものころからの
夢を実現
〈夫〉瀬尾 広水さん(52歳)
(鞆鉄道株式会社・2004年入社)
子どものころからバス運転者になることが夢でした。人材派遣会社で管理職に就いていましたが、通勤で利用するバスで運転者を募集しているのを知り、迷わず応募しました。40歳直前にして、長年の夢を叶えることができました。
バス運転者の任務は大きく分けて「路線バス」「高速バス」「貸切バス」の3つがあります。私が主に担当しているのは高速バスです。車体が大きく、路線バスとは車両特性が大きく異なるため、事故がないように運転には多大な集中力を必要とします。移動距離が長く、定刻運行を守ることにも神経を使います。高速道路での運転技術や運行の知識がなければ、お客様の安全や快適さを確保できません。その責任の重さに比例して達成感も大きく、やりがいを感じています。
バス運転者への印象は、憧れから責任へと変わりましたが、大好きなバスには定年まではもちろん、その先も関わっていたいと思っています。大きな車体を扱うことが体力面で難しくなったら、定期観光の小型バスの運転者をしてみたいです。これまでの経験を生かして、運行管理者や運転者を育成する指導者という道もあります。自分で目標を定めてチャレンジしたり、状況に応じて働き方を選んだりすることができます。バス運転者の資格と経験を誇りに、生涯、働き続けていきたいと考えています。
トラックから
ハンドル持ち替え
〈妻〉智美さん(49歳)
(鞆鉄道株式会社・2016年入社)
「生涯ハンドルを握っていたい」と思うほど車が好きで、バス運転者になる前はトラックの運転手をしていました。ドライバーとして新たな道に進もうと、40歳を機に転職。その後、同じバス運転者である夫と出会い、結婚もしました。今は一緒のバス会社に勤めています。
バスは一年を通じ休みなく走っているので、夫婦で運転者をしていると、例えば子育てをしながら働くのは大変ではないかと心配されますが、他の運転者さんらの協力もあり、休みもしっかり取れますし、その点は全く心配いりません。体調不良や子どもの学校行事で休みを取りたいときは、きちんと対応してもらえます。こうした仲間がいることを心強く思っています。
仕事に慣れてきたころ、運転でミスをしてしまい、バス運転者として何をすべきか自問自答しました。そこで思いついたのが、バスの空間を楽しくしてお客様に喜んでいただくことでした。殺風景な車内に旬の花を飾り始めました。やがてお客様が楽しみにしてくださるようになると、季節のイベントごとに装飾するようになりました。クリスマスにはリースを吊るし、モールで窓を縁取り、ツリーも飾りました。観光地の鞆を走る路線バスでは、名物の鯛網漁を人形で再現し、観光客や海外の方に喜んでいただきました。お客様の反応を直に見聞きできるので励みになります。
介助が必要な高齢者の方は、好きな旅行を諦めてしまうと聞きます。以前取得したホームヘルパーの資格を生かして、「介助もできるバス運転者」も目指してみたいです。ほかにも、女性限定の観光ツアーや女性専用の夜間高速バスも実現できればいいなと思っています。やりたいことが尽きません。
飲食業からドライバー
石本 雅基さん(37歳)
(株式会社中国バス・2017年入社)
接客という仕事が好きで、以前は飲食業に就き店長を10年務めていました。転職先としてバス運転者を選んだ理由は、その接客と趣味でもある車の運転の両方を生かせる仕事だと思ったからです。
現在の担当は路線バスです。接客業で培った経験を生かし、車内アナウンスでは「もうすぐ止まります」「動きます」「大きく揺れます」など小まめな声掛けを心掛けています。バスに久々に乗ったというお客様からは「バスの運転者さんってこんなに話すんだ!」と驚かれました。子ども連れのお母さんからは「小さな子どもと一緒でも安心して乗れます。ありがとう」とも言われました。お客様と直接対話できるのもこの仕事のだいご味です。
今後はアナウンスで、バスが走っている場所を説明したり、到着時間を予測してお伝えしたりしてみたいと考えています。初めてこの路線を利用される方や一人で乗られているお子さんなどお客様の不安を取り除き、一人でも多くの方にバスが楽しいと思っていただきたいです。「石本が運転するバスに乗りたい」そんなふうに言っていただける運転者になることが目標です。
バスは人々の移動手段であり、これからの高齢社会においては生活の脚としてさらに必要とされる存在です。社会に貢献できているという実感が持てることも、バス運転者を選んでよかったと思う理由の一つです。
運転者から管理職へ
西村 信浩さん(54歳)
(中国ジェイアールバス株式会社・
1997年入社)
長距離トラック運転手からバス運転者となり、現在は運輸課の担当課長としてバス路線や運賃など運輸に関する事業計画の管理、社員の育成に取り組んでいます。
管理職に就いたのは入社10年目です。バス運転者をしながらも路線の整理やダイヤ改編に関心があり、全バス停の乗降人員を数えて、運転者の視点でより効率的なダイヤを考えて提案しました。この動きが評価されて本社で運輸全般に携わるようになりました。入社12年目で課長代理、20年目に運輸課担当課長に就任。管理職を目指したというよりも、課題を見つけては解決法を考えることが楽しく、それを積み重ねてきた結果です。
バス運転者の時には、車内アナウンスで自己紹介を始めました。朝は「おはようございます」、夕方は「お疲れさまでした」「宿題しなさいよ」と声を掛けていました。「お客様に楽しんでいただきたい」「仕事をもっと楽しみたい」という気持ちで工夫したことがスキルとなり、会社が評価してくれました。現在携わっているバス運転者の育成では、運転者は命を預かる責任のある仕事ですから、運転技術や安全対応について運転者の経験のあるなしに関わらず、一から時間をかけて伝えています。さらにご家族に安心していただけるように、運転者が生き生きと働ける環境づくりにも努めています。
バス運転者のキャリアパスは多様化し、その道筋が整備されてきました。活躍の幅が広がり、やりがいを感じ続けられる仕事です。興味のある方は、ぜひチャレンジしてください。